天恵の美酒 蔵から見晴らすのは、凛々しい北アルプスの山並みと稲穂が風に揺れる田圃。湿度の低い環境が病害を寄せつけない健康な米を育み、さらに昼夜の寒暖差が旨みを凝縮させます。大地を潤すのは北アルプスからの雪解け水。やわらかでいて清々しい味わいは、長年月をかけて地中をめぐったからこそ。山々が白く粧う頃には凍てつく寒さが一帯を包み、酒造りの季節の到来を知らせます。
和を以って貴しと為す 「以和為貴(和を以って貴しと為す)」とは、聖徳太子の教えであり、先の杜氏、下原多津栄大杜氏の座右の銘です。下原大杜氏は常々、杜氏の仕事は2種類あると言いました。もちろんひとつは良酒を醸すこと。そしてもうひとつが、蔵人一人ひとりを見守り、良好な関係を築くことです。「蔵人同士の関係に角が立っていれば、角のある酒になる。調和のとれた蔵人たちが造る酒は、まあるい酒になる。おら、まあるい酒がいい」。それが蔵人たちのあり方です。
手いっぱい 自然からの賜り物に感謝を捧げ、その声に耳を澄まし、尽くせる限りの人の手を尽くして酒を醸します。機械化すれば酒質は均質になり省力化が図れるかもしれません。しかし、そこからは決して突き抜けた酒はできません。なぜなら酒造りは、自然と人の力次第で無限の可能性を秘めるものづくりだからです。その無限の可能性を求め、わたしたちは手間ひまをかけるのです。